昨日AppleがiPadをリリース、499ドルからの発売に踏み切りました。iPhoneOSを採用、14万本近くと言われるApp Storeの資産をダイレクトに引き継ぐことを目標とし、解像度は異なるもののiPhoneアプリがそのまま利用可能(もちろんいつも通りApp Storeから購入)、そして新たなアプリとしてiBooksを投入、iBooks Storeを基本チャネルとして大手出版社5社(Penguin、Harper Collins、Macmillan、Hachette Book Group、Simon & Schuster)と手を組み、デジタル出版市場に殴り込みました。カンファレンス前日にCEOがAppleタブレットの存在をはっきりと認めてしまったMcGraw Hilは、今まで協力体制を惜しまなかったのにも関わらず、徹底した情報管理を提携企業にも求めるSteve Jobsが怒って一旦提携解除になった模様です。ちーん。。。

ちなみにiPadのスペックの概要はTechcrunch Japanが簡単にまとめてくれています。→”AppleがiPadを発表―目玉はiBooks、価格は$500から$830

スペックの概要:ディスプレイは9.7インチ、重量は1.5ポンド(680g)、厚さは0.5インチ(12.7mm)だ。 CPUは Appleが新しく独自開発した1GHz A4で、メモリは16Gbから64GBまで。さらにWiFi、加速度計、GPS、マイクロフォンとスピーカーが標準で内蔵される。モニタは全面マルチタッチ静電容量スクリーンだ。バッテリーの駆動時間はいちおう10時間とされている。WiFiに加えて、3G接続がAT&Tから提供される。Wifiのみ、16GBのバージョンは$499。32GB版は$599、64GB版は$699となる。ATTが提供する3Gネットワークに接続できるモデルは$829(64GB版)。AT&Tとのデータ通信契約は、月250MBまでが$14.9、無制限定額は月$29.99。 3GiPadはすべてアンロック版だ。つまりATT以外の他のキャリヤでも利用できる。

こちらも参考になります。→ 脅威の薄さと低価格、アップル社の新タブレットPC「iPad」の高解像度写真と仕様のまとめ

このiPadをネットブック市場の再定義だとかiPhoneの延長だとか何やかんや騒がれていますが、やはり事実上電子書籍市場でのAmazonのパイをどれだけ食えるかに今後の飛躍が掛かっているのかなと思います。実際メディアは、売上好調のKindleが先頭を走る電子ブックリーダー市場において、Appleがそのイノベーションを以てどれだけ食い下がれるか、といった所に興味があるはず。TechCrunchも”Apple iPadがAmazon Kindleに勝つ10の理由“と表して記事を書いており、何を以て「勝つ」と表現しているのか分かりかねますが、しかしながら、そもそも彼らがターゲットとしている層は微妙に違っています。

経済学101 – iPadはe-bookリーダーじゃない

読書と音楽ではユーザーの嗜好の分布が全く異なるからだ。音楽であればもちろんマニアは存在するが、一般人もかなりの消費を行う。しかし、これは書籍には当てはまらない。
1/3 of high school graduates never read another book for the rest of their lives.
42 percent of college graduates never read another book after college.
80 percent of U.S. families did not buy or read a book last year.
70 percent of U.S. adults have not been in a bookstore in the last five years.
どの程度信用できるかは分からないがこちらのページが引っ張ってきた統計だ。

Kindleが読書マニア向けのデバイスとすれば、iPadは読書のライトユーザーのためにデバイスとなるだろう。これはAppleがiPodでとった戦略に近いだろう(iPodが音質を売りにしたことはないと思う)。例えば、ゴシップ誌が唯一の読み物という(おそらく毎月一冊以上本を読む人より多い)層にとってe-inkは必要ない。カラー液晶の方がいいに決まってる。

*e-ink:Amazon KindleやSony Readerに採用されている液晶の種類

ここでのAppleの思惑は、あわよくばAmazonからシェアを奪うことができれば良し・できなくても良し、iBooksを1つの強力な武器として、モバイルデバイスとネットブックの微妙な狭間の「タブレット市場」を定義し、マーケットリーダーとしてそのハード・ソフト両面のプラットフォームとしての魅力を高めることにあると思います。加えて、主婦や低年齢層などの今までの非Appleユーザーにリーチする目論見も含めて、大衆向けとしての位置付けが見て取れます。ですから前述のAmazonのパイを何%食ったかは付属物としての成果であり、新たな市場創出及び迅速なマスレベルでの拡大が本質的な狙いのはずです。つまりタブレット市場のドミナントデザインの座を、その圧倒的なAppleブランド力を以て一気に取ってしまうということです。AmazonもAmazonでその戦略を理解しているはず、よりKindle Loversの要求に応える形でKindleの高性能化に突っ走る集中戦略を採り、その競争優位からiPadのデザイン性と一線を画す方針を取るでしょう。

とはいえ出版各社は何もしなくて良いだなんて思ってはならず、さらには旧市場で寄り固まっていては何の進歩も革新も起きません。にも関わらず、イノベーションのジレンマがどれだけ根深いのかは分かりかねますが、一般消費者から見ても、これはまさにグローバル競争時代における旧態依然の利権確保。政治の中から政治システムのイノベーションが起きず、旧教育システムの中から教育のイノベーションが起こらないのと同義、同業が固まって産業が革新的に進歩した、あるいはその革新的進歩に追い付いたという事例が今まで無いことを彼らは知っているんでしょうか。
→ “電子書籍化へ出版社が大同団結 国内市場の主導権狙い – asahi.com

参考:日本の出版社が直面するイノベーションのジレンマ – My Life in MIT Sloan

- 現顧客(書店や取次)の要望に答えるため、がんじがらめになり、新たな顧客へのビジネス(消費者向け電子書籍直販)に参入できない
- 新ビジネス(電子書籍)が現状ビジネスに対して破壊的なのに、規模が小さいため、完全移行できない。
- 現状の組織が現顧客・現ビジネスに最適化しており、全く異なるスキルやプロセスが求められる新ビジネス(電子書籍)に対応できない


日本国内出版社が集って何やかんや議論して部分解を探している間(おそらく、今さら独自規格作ろうとか言うのでは…)に、電子書籍化の流れを牽引するAmazonやAppleは彼らを無視して全体解を求めて自分たちの市場を大きく広げていくことでしょう。しかも、今まで本1冊出版するのに数百万円かかるコストを、創作・流通・販売のプラットフォームを一手に担うiPad+iBooks Storeの登場で一気に数百分の1にしてしまう破壊的イノベーションなので、個人がその力量で世界相手に勝負出来るということで旧来の出版社の役割がほとんど無くなってしまうわけです。
うめ、日本語マンガ初となるKindle向け電子書籍を出版 – コミック・ナタリー

とはいえ、ビジュアルで勝負出来る書籍内容だと目はあるかもしれませんが、やはり現時点では英語対応のみなのでKindleもiPadも日本語対応コンテンツがほとんどありません。日本出版企業連合軍との長い会議が面倒臭いと判断してのことでしょう笑 英語圏との情報格差の深まりはどうしても拭いがたいですが、逆に日英の言語間アービトラージを活かしたビジネスが日本語対応までの間に出てきそうですね。

さてさて、リリースされて間もないこのiPad、いろんな所で「買った方が良い理由」「買わない方が良い理由」が議論されていて、客観的に見てちょっと面白かったのでまとめてみました。

『iPad』を購入するべき10の理由!- ガジェット通信
1. ミニPCより安い
2. 薄いので持ち運びが楽
3. 680gと軽い
4. 連続10時間持続のバッテリー
5. ハードウェアキーボードが使える
6. オフィス系ソフトもバッチリ
7. 14万ものiPhoneアプリが動作可能!
8. 画面が1024×768と広い
9. 『A4』チップ搭載!優れたパフォーマンス
10. モテる!

日本でiPadが売れない9つの理由 – Digital Magazine
1. サイズがデカすぎる
2. Adobe Flash非対応(99%の確率で)
3. ハーフHD(720p)再生のフレームレートが30fps
4. シングルタスク
5. iBooks Storeに日本語書籍はない
6. カメラ非搭載
7. キーボードが打ちにくそう
8. USBポートなし
9. iPhoneアプリの表示画面が小さい

これを見てどう判断するかは各人のお任せですが、Appleの策略はこうした記事を何本も何本もネット上に出回らせて派手に宣伝させることです。もちろんこのポストも含めて笑

# この流れに乗って上手く立ち回れそうなCookPadが羨ましい笑

さてさて、Appleが派手にiPadのセンセーショナルなデビューを宣伝してそっぽ向いている間に、GoogleはGoogleで、Google Voiceをブラウザベースで動作させるWebアプリを公開しました。AppleがApp StoreにGoogle Voiceを承認しないもんだから、HTML5をゴリゴリいじってブラウザベースで電話出来るようになりました。さすがです、Googleさん。


[Updated:2010/02/03] e-inkは”液晶の種類”でした(メーカ名/製品名でもあります)。
一方iPadはePubを採用してまして、電子書籍フォーマットという対比をするとなると、Sony Reader・iPad がePub組、Kindleが独自規格(DRMも独自で非公開)という対比になります。申し訳ありませんでした。hokayanさん、いつもありがとうございます◎